2016/06/12
紫陽花は、"逆転スイッチ"です。
現代のニッポンで、雨は 龍神さまが知ったら、さぞ悲しむであろうほどの嫌われよう。 「明日は雨に〜」と言う時、気象予報士の眉毛も、 通勤の人たちの眉毛も、旅行者の眉毛も、ハの字に下がり 「残念ながら...」 のトホホ・モードで語られます。 まして梅雨ともなると、連日の雨で洗濯物は乾かないし 薄暗いし、ウツウツと出かけるのも億劫で、お店は客足が減り、 ひたすら忍耐... ニンニン... そんな現代人の(わがままな)ネガティブ梅雨思考回路を ガラリと転換してくれる(もしかしたら最大の)スイッチが、アジサイ。 梅雨の訪れを待ってましたとばかりに咲くアジサイは、 まあるく光が灯るように明るくて、かわいくて、 そんなアジサイをニコニコと眺めているうちに、 雨音も悪くないな、、いやむしろ心地よくて、 だって恵みの雨じゃないか、降ってくれないと困るもの! と発想の駒はヒックリ返り、同じ世界にいるというのに、 何とはなしに心が元気になっていく... *注*アジサイの葉は、食べないでくださいね。
そして心が動けば、御菓子が生まれる!
豊島屋茶寮『八十小路(ハトこうじ)』の
上生菓子「あじさい」を見ていると、
きっとアジサイに心動かされたに違いない
作り手の"センス・オブ・ワンダー"が伝わってきます。
淡い色合いの"きんとん"が細やかな上生菓子で、
アジサイの花びら(正確には萼=がく)の微妙な彩りが
表現されています。中心の粒あんが、アクセント。
*注*アジサイの葉は、食べないでくださいね。
北鎌倉『こまき』の「あじさい」は、 宝石のように透き通った寒天の錦玉羹が、 雨のしずくで花が輝いているよう。 錦玉羹は少し固めでコロコロとほぐれ、 中心のなめらかな白あんと コントラストが愉しくて どちらもいただいてしまうのが惜しまれるほど 細やかなつくり。少しずつ、一口ずつ、 眺めつつ味わう大人の御菓子です。
(長谷寺) 湿度が高く、坂や崖の多い鎌倉の土地に 根を張って地崩れを防いでくれるアジサイは相性がよく 多くのお寺や神社の境内に、家々の庭に、川縁にも さまざまなアジサイが植えられ育てられてきました。 起伏に富んだ地形のおかげで 上からも下からも、手前から奥の方まで、 さまざまな角度でアジサイを立体的に楽しめます。
アジサイの語源といわれる「あづさい(集真藍)」=「藍色が集まったもの」 のことば通り、藍の単色のアジサイが連続する景色もあれば、 さまざまな色彩や造形のアジサイに出会える景色もいいのです。
ヨーロッパで品種改良されて輸入されたアジサイも もとは日本のガクアジサイが原産だとか。 どのアジサイの風景も、日本らしい風景なのです。
アジサイを見つめた目で もう少し視界を広げていくと たとえば、アジサイの奥に 花菖蒲があり、
(東慶寺) たとえば、足元には 苔が美しく育っていて、
たとえば、岩壁には イワタバコが小さな花を咲かせていて
たとえば、目を上げると 青々とした楓の葉が揺れていて
(宝庵) 目や耳だけでなく、皮フや鼻や、あらゆる感覚を動員して この世界にあるものを感じとることができたら... 梅雨は、生きものの息吹にあふれた美しい季節です。
鎌倉のアジサイは、 今年もありがたい悩みのジレンマを抱えています。 あまりに集中する混雑は、 自然にも負荷がかかってしまいます。 大きなお寺や、有名な観光スポット情報に 目や足は向かいがちだけれど、 小さな路地や、名前も知らない坂道で 出会えるアジサイもたくさんあります。 御菓子の「あじさい」も、さまざまなお店で それぞれ異なるイメージの作品が作られていて、 自分だけのお気に入りの「アジサイ&あじさい」を 見つけられたら、きっと愉しい。 そして、たくさんの生きものたちの美しい姿に 目を転じていけたら、もっと嬉しい。 そういう元気ポイントの発見をしていく方が "逆転スイッチ"のアジサイらしい気がします。 鶴岡八幡宮では、放生会が執り行われ、 柳原神池にゲンジボタルが放たれました。(6月12日) 一週間ほど「ほたる祭り」として日没から午後8時半ごろまで 蛍の幻想的な光を見ることができます。 鎌倉は、 今年も美しい季節になりましたよ。 ---------------------------------------------------------- *アジサイの葉について http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082116.html 触れても害はないけれど、食べて体内に取り込むと有害であることがわかってきました。まだ研究途上なのでさまざまな説がありますが、食べないでください。ここにもアジサイのジレンマが。。 ---------------------------------------------------------- 豊島屋菓寮 『八十小路』 鎌倉市小町2-9-20 phone 0467-24-0810 11:00-17:00 水曜定休(祝日の場合は営業) 「八十小路」は豊島屋の茶寮で、看板の鳩サブレーにちなんだ ハトつながり。季節の和菓子は持ち帰りもできます。 『こまき』 鎌倉市山ノ内501 phone 0467-22-3316 10:00-16:30 火曜定休 *御菓子や営業時間は変わることがあり 事前に電話確認がおすすめ
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(写真&文 中尾京子)
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