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11 萌えよ新緑、噛めよ麩まんじゅう

2016/05/02

「山笑う春」という季語のとおり 春、鎌倉の山は、まるで顔をほころばせるように やわらかな表情になる。 茶色がかっていた山は、暖かくなるにつれて 新芽の薄い緑色や、明るい花の色...桜色・桃色・白色に ふうわり包み込まれていく。 やがて遅咲きの八重桜も終わるころ、花は葉に変わり、 山は濃淡のグリーンに覆われる。若葉の季節である。 ムンと一回り山が大きくなり、こちらに近づいて見えるのは、 葉が増え茂ってきたためだろうか。 若葉の季節の和菓子といえば、 まず柏餅をあげたい。 端午の節句の供物、縁起物として、江戸時代中期頃 全国に広まったといわれる柏餅は* 自然の状態に近い「木の葉」感では和菓子随一。 カシワの葉に覆われたおかげで 香りよく、持ちやすく、隣同士でもくっつかず つつつと半ば重なるように店頭に並ぶ。 白い餅のこしあん、草餅のつぶあん、薄紅色の餅の味噌餡... スタンダードな柏餅もたのしいけれど、

鎌倉には、もう一つの柏餅ともいえる 小さな「カシワの葉の麩まんじゅう」がある。 この季節の間だけ作られる「麩帆」の限定品。

「麩帆」は、生麩の小さな店で 通年で「麩まんじゅう」も作っている。 よもぎの入った生麩で こし餡を包んだ「麩まんじゅう」は 笹の葉にくるまれていて、冷たくしていただく。 瑞々しい笹の香りが、爽やか。

「カシワの葉の麩まんじゅう」は、 生麩でこし餡を挟み、カシワの葉を被せたもの。 笹の葉の麩まんじゅうより、一層「生麩」の風味をたのしめる。 ヒンヤリ冷たくて、とてもやわらかい。 そして"歯ごたえ"がある。 トロけるやわらかさとは違う。 餅のモチモチさとも、また違う。 やわらかいのに、噛まずにはいられない。 つるんと飲み込めそうだけれど、噛んでしまう。 なんとも不思議な食感。 奥歯でグッと押し切るようにして噛む。噛む。 噛むほどに、なめらかな こし餡の甘さが ふわりと広がる。 この感覚が、好きな人にはたまらない。

左が「カシワの葉の麩まんじゅう」右が笹の葉から取り出した「麩まんじゅう」 「生麩」は、精進料理のために生まれたもので お刺身や、田楽、煮物、揚げ物、お吸い物の具など さまざまな調理法、さまざまな味つけで食べられる。 その"何でも来い!"的なスタンスと、変幻自在な性格ゆえに 「生麩は謎の食べものだ」と考える人もいる。 甘い「麩まんじゅう」を、食べたことのない人も存外多い。 しかし、一度クセになると この味わいは忘れられない。 葛から作られる「水まんじゅう」は、 つるんとしたノド越しが夏に合う。 今はまだ新緑の季節だから、 ノド越しを急がずに、一噛み一噛み、 軽やかな甘さを噛みしめたい。

「麩帆」にほど近い、甘縄神明宮の境内に行くと 新緑の木漏れ日があふれていた。 階段を上ってお参りし、振り返ると海が見える。 穏やかな青い春の海ではなく、 もう初夏のまぶしい海になっている。 ---------------------------------- 麩帆 鎌倉市長谷1−7−7 0467-24-2922 10:00~ 売り切れたら閉店 月曜休み 生麩、よもぎ麩、粟麩のほか、 笹の葉に包んだ麩まんじゅうが定番。

*柏餅あれこれ  柏餅の「柏」はあて字。  柏=ヒノキ科のコノテガシワを意味する文字だが、これは針葉樹。  柏餅に使われるカシワは、ブナ科の槲(カシワ)である。 カシワの木は、古い葉が、新芽が育つまで落ちないため 家系が途切れることのない縁起のよいものとして、 端午の節句の供物に用いられてきた。 18世紀中頃(江戸時代中期9代将軍徳川家重〜10代将軍家治の頃)に 江戸で生まれた文化が、参勤交代によって全国へ広まったと考えられている。 photo&文 中尾京子





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