2016/01/25
鎌倉には「雪ノ下」という地名がある。
源頼朝のために、冷たい雪を貯蔵していた 雪屋(氷室)があったから、とも、 植物のユキノシタが群生していたから、とも 由来には諸説あるけれど、
「雪ノ下」というのはまた、 日本の「かさねの色」*の一つを表す言葉でもある。
雪におおわれた紅梅の色。 うっすらと降り積もった白い雪の下から 透けて見える紅のことをいう。
春そのものではなく、春の兆し。 まさに今、初春を映す日本の色。
その色をもつ和菓子がある。 初春を祝う縁起物、花びら餅である。
白い求肥の下から、練りきりの紅色が うっすらと透けて見える。
鎌倉では、雪ノ下の隣街、小町の老舗 「美鈴」の"一月の御菓子" が、花びら餅。
花びら餅の原点は、平安時代の宮中新年行事 "歯固めの儀式"にあるという。 白の丸餅に紅色の菱餅を重ね、 その上に、猪肉、鮎の塩漬けなどをのせて 長寿の願いを込めて食べていたもの。 もとは御菓子ではなかったのだ。
やがて時代とともに材料はシンプルになっていき 甘い白みそに、甘く煮たゴボウを挟む、という今の姿へ。 変わらないのは、かさねの色である。
何百年もの間、宮中のものだった花びら餅が全国へ広がったのは 明治時代に、裏千家が初釜の御菓子として使ってからだとか。
「美鈴」は、この伝統的な みそ餡だけでなく 小豆餡の花びら餅を作っている。
モノクロ・モダンな、鎌倉流の花びら餅。 餡の黒色と、白い練りきりが透けて見える。
あずき餡は、みそ餡よりも親しむ機会が多いけれど 甘いゴボウとの組合わせというのは やはり新鮮である。
新春の御菓子だから、 一月のこの時期にしか、巡り会うことがない。
毎年お正月が来るたびに、新たな気持ちで対面する。 ファーストコンタクトの初々しい感動が甦る。
今年も一月に、鎌倉に雪が降り 冷たい空気が 張りつめているけれど、
晴れた日には、 太陽の光が 温かな色になる。 海が キラキラ輝きだす。
毎日少しずつ日中の時間が長くなり、 梅の枯れ枝の先に、丸いつぼみが いつの間にか ついている。
雪の向こうに 春が来ていることを 花びら餅が 教えてくれる。
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美鈴 鎌倉市小町3-3-13 phone 0467-25-0364 9:00-18:00 火曜定休
月替わりのお菓子と、花などを象った上生菓子があり 季節の美しさと楽しさを味わえる。
*「かさねの色目」について参考にさせていただいたサイト http://www.543life.com/kasaneirocolumn.html 和文化研究家 高月美樹さんの記事から http://www.mode-japonesque.com/mj/kasane/itiran/winter/itiran.html もーど・じゃぱねすく
*「かさねの色目」とは平安時代の宮廷着物文化から生まれたもので 以下3つを表す言葉といわれている。 ・色の違う二枚の衣を表裏に合わせて仕立てた時、重なりによって生まれる色合い。 ・異なる色の布を重ねて着た時の色のこと(襲ね色目) ・異なる色の縦糸と横糸で織り上げた布の色のこと(織り色目)
photo&文 中尾京子
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